「音楽」の価値を確実に下げた音楽サブスク3つの大罪
現在大流行している「サブスク」。
「サブスクリプション」の略で、
「製品やサービスなどの一定期間の利用に対して、代金を支払う方式」
という意味を持つ。
「月額課金」や「定額制」と表現すればより分かりやすいかと思う。
今や自動車や家具などもサブスクできる時代になっている。
エンタメ業界では比較的早い段階からサブスクが導入されており、「漫画読み放題」「動画見放題」「ゲームやり放題」と言ったサービスは人々の生活に欠かせない物になった。
音楽サブスクも、2015年以降サービスが次々と立ち上がり、ここ数年で一気に広がりを見せている。
こうした流れを受け、日本の音楽業界も本格的なサブスク時代へと突入している。
そこで今回は、サブスクが「音楽」の価値を下げてはいるのではないか、と懸念する筆者が、サブスクの問題点を3つ挙げ自身の考えをあれこれ語っていきたいと思う。
音楽サブスクがもたらした2つの恩恵
「音楽の価値が下がった」を語る前にもたらした2つの恩恵を挙げていこう。
ユーザーにとっては革新的なサービス
音楽サブスクはとにかく便利。いつでもでこでも好きな音楽を楽しめる。
その上コストパフォーマンスに優れ、新しい音楽に触れる機会が圧倒的に増えたというリスナーも多い。
ユーザーからすれば幸せになれる要素ばかりである。
音楽産業にとっても救世主
音楽業界が16.5%の二桁成長したアメリカは、いかに「音楽ストリーミングの国」として成功したか? | All Digital Music
これらの記事を読むと、サブスクが音楽産業にもたらした恩恵の大きさが分かる。
音楽産業売上トップ10の国々の市場成長率が軒並み上がっており、サブスクリプション型音楽ストリーミングが音楽産業にとっても見過ごせない収入源として大きな存在感を放っている。
サブスクの台頭で、フィジカル(CD、レコード)やダウンロードの売り上げは落ちているものの、音楽産業全体の底上げという意味ではまさに救世主と言えるのではないだろうか。
音楽サブスクの台頭で音楽の価値は下がっている
サブスクが普及することにより音楽自体の衰退は免れるかもしれない。
だが同時に、音楽の在り方が変わりその価値感も崩れかかっている。
ここからは、音楽の価値が下がったと思われる項目を三つに分けそれぞれ解説していく。
(コンセプト)アルバムの衰退
ある一定のテーマまたは物語に沿った楽曲によって構成されたアルバム。アルバム全体でひとつの作品になっている作品
Spotifyの発表したデータによると、イギリスでは「アルバム単位」ではなく「プレイリスト単位」で再生されることがほとんどだそうだ。
これはイギリスの話だけれど、各国のデータを取ればきっと同じような結果になるはず。ユーザー視点で考えれば明白で、好きな曲だけをどんどんお気に入りに追加し、その中から厳選してプレイリストを作成する。
そこにアルバム単位の音楽が入れる余地などない。
つまり、音楽配信においては、"アルバム"のフォーマットは何の意味も持たないということだ。
サブスクがさらに勢力を伸ばせば、フィジカル(CD、レコード)で音楽を楽しむリスナーは一層マイノリティとなり、上述した記事から考えてもその数は今後も減少して行くと思われる。
このままでは、コンセプトアルバムは言うまでもなく、コンセプト在るなしにかかわらず、「アルバム」というフォーマット自体が絶滅危惧種になってしまう。
アルバム単位で作品を聴いてほしいアーティストは沢山いるだろうし、それを考えるといたたまれない気持ちになる。
今後はアルバム全体のバランスよりも一曲ごとのインパクトを高める方向性で楽曲制作をしていかなければならない。
尤も、インパクトの強い楽曲がまとめられたアルバムならリスナーの満足度も上がるかもしれないが、そもそもアルバムが聴かれなくなっている今では何の意味もないし、何より"アルバム"としての趣が失われてしまう。
音楽がより使い捨てになってしまった
「音楽の使い捨て」というのはサブスクが登場する以前から言われていたことだけど、ここに来てますます顕著になったと思う。
次から次へとおすすめ曲が表示され、リスナーはどんどん新しい音楽を享受できるわけだが、まさに「音楽の垂れ流し」といった表現がしっくりくる。
目的をもってサブスクを活用しているなら問題はないかもしれない。
だが、与えられた情報をただ有難がるタイプの人間は、次から次へと流れてくる音楽をぞんざいに扱ってしまうのではないか。
得られる音楽(情報量)が多すぎて、耳触りの良い音楽だけをなんとなく聴き流すということが増えるため、じっくり音楽を楽しむという概念が揺らいでしまう。
月額料金を支払っているとはいえ、サブスクから得られる音楽の量や情報は支払う対価としては常軌を逸している。
コスパが良いということの裏返しだけれど、それこそが一つひとつの音楽の価値を下げていることにならないだろうか。
アルバムを一枚ダウンロードすれば余裕で元が取れてしまう料金体系だ。
つまりアルバム一枚分以降は"タダ"で「音楽」という情報が受け取れるという事になる。
人間は無料で得られた物にありがたみは感じない。
お金を払うことで初めてしっかりと咀嚼しようとする。
それはノウハウと似ていて、たとえばお金儲けのノウハウを無料で入手しても、実践するのは全体の数%だというデータもある。
つまり人は無料で手に入れた物に対し、「元を取ろう」という気がなくなるのだ。
音楽サブスクもこれに当てはまっているような気がする。
サブスク以前にも、YouTubeやSNSで簡単に音楽が聴ける時代が到来し、その時点で音楽の価値は確実に下がった。今の状況はそのときよりも深刻だと思う。
リスナーの中で「音楽はタダで聴くもの」という図式が完全に出来上がってしまった。
その考えは、音楽自体の間口が広がるからプラスの側面もあるけれど、対価を支払ってこそ得られる感動という物があると思う。
お金を払っているからこそ、作品を隅々まで余すところなく聴こうとするだろうし、その結果、得られる感動の量も変わってくる気がするのだ。
あと単純に、配信数でも音楽の価値を測ることが出来る。
アルバム一枚を3000円として10曲収録なら、一曲当たりの価値は「300円」
サブスクの月額料金を1000円として、全配信楽曲が5000万なら、一曲当たり「0.00002円」
既存のアルバムが本当にそれだけの価値があったのか分からない。
サブスクの方も実際はここまでシンプルな計算でもないが、考え方としてはこんな感じだし、一曲当たりの価値がどんどん下がっているのは間違いない。
尤も、仮にサブスクが存在しなかったとしても、ネットが発達していく中で、違法ダウンロードの増加やサブスク以外の音楽サービスが登場していた可能性もある。
人々がネットに支配されている以上、今の状況は避けられなかったかもしれない。
ファンの減少によるアーティストの無個性化
先ほどの「音楽がより使い捨てになった」という項目に関連して、アーティストそれぞれが抱えるファンの数が減るという現象が起こる。
上述したけれど、サブスクは音楽を聴き流すことが増える。
雑多に「良いな」と感じた曲のみを聴くので、リスナーによってはアーティスト名をいちいち認識しない場合もあるかもしれない。
そのため、特定アーティストへの強い思い入れがなくなる。
アーティスト側からすると、コアなファンが付きにくいという事だ。
それのどこに問題があるのかと言うと、すべての楽曲をより"大衆向け"に制作する必要が出てくる。
従来なら、アルバム収録曲で実験的な作風にチャレンジできていたかもしれないが、今後はそれが出来なくなる恐れがあるのだ。
なぜなら、一人でも多くのリスナーに刺さるよう、アルバム収録曲であってもポップな作風が求められる。
その結果アーティストごとの個性は消え去り、皆が同じようなサウンド、歌詞、メロディになっていく。
個性を消すということは、アーティストの自由を奪う事であり、鳴らしたい音が鳴らせなくなることを意味する。
アーティストが自分たちのやりたい音楽が出来なくなる。
筆者はそんな抑圧された音楽に価値があるとは到底思えない。
邦ロックは「似たようなバンドが多い」と度々揶揄される。
しかしそれは仕方のないことで、売れるためには売れている音楽を模倣しなければならないからだ。
ロックには「売れたいと思う気持ちは悪」と言う考え方もあるが、売れなければ次の作品が作れない。活動を維持してくために「売れたい」と思う気持ちは必要なのだ。
そして、従来までは「売る」ための役割をシングル曲が担っていた。
なぜならシングル曲は最も人目に付きやすいから。
やりたくない音楽でも、シングル曲は仕方ないと割り切り発表してきたバンドも沢山いるだろう。
ところが、今後はアルバム曲でも耳触りの良い割り切った作風を求められる恐れがある。
バンドの収益がライブやグッズに移行している昨今、すでに一定のファンを抱えているアーティストならそこまで問題ではないかもしれないが、これからデビューを控えた若手バンドは本当に可哀想だ。
価値の下がった音楽の世界で戦わなくてはならないし、価値のない音楽を作り続けなければ活動さえもままならない。
しかも、時代に迎合したところで売れる保証もないのだ。
「音楽」の価値を確実に下げた音楽サブスク3つの大罪 まとめ
ということで音楽サブスクが「音楽」の価値を下げているという観点であれこれと語ってきたがいかがだっただろう。
今回の記事は自身に向けたメッセージでもある。
筆者もサブスクを日々活用しているが、一つひとつの楽曲をしっかり噛み砕いて楽しまなければいけないと、改めて考え直すきっかけになった。
お気に入りのアーティストが見つかった際は、その場限りで終わるのではなく、コアじゃなくてもいいのでファンになってもらいたい。それが後々の音楽業界のためになると思う。
それではまた。
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