「アイドルのロックバンド化」と「カレーラーメン」の共通点
以前、「ロックバンドのアイドル化」について記事を執筆した。
上記の記事は、ロックバンドの知名度が上がり一般層にまで人気が拡大すると、同時多発的に「顔ファン」が発生する。その結果バンドはアイドル化していく、という内容。
数年前は「KEYTALK」辺りが、ファンからアイドル的な扱いを受けていた。
とあるフェスで彼らを観たとき、ジャニーズアイドルを彷彿とさせる黄色い声援の嵐に驚いたものだ。
バンドが売れるために"ビジュアル"という点が大きな武器になるのは間違いない。
かといって、見た目だけにこだわりバンドを追いかけるのもいかがな物だろう。
KEYTALKは比較的好きなバンドで、彼らの音楽はライブ、音源共に素晴らしいと思う。だからこそ、彼らがアイドル化している現実を見せられた時、ファンはしっかり音を聴いているのかなと心配になった。
ただ、バンドのアイドル化というのは今に始まったことではないし、一昔前から大なり小なり存在していた。
今後もその習慣がなくなるとも思えないので、もう正直どちらでもいいが、今回はそれとは正反対の話題である。
アイドルのロックバンド化
バンドのアイドル化が世間を賑わせた少しあと、今度はその反対のことが起こっているとネット界隈がざわついた。
それが「アイドルのロックバンド化」現象である。
尤も、アイドルがロックに進出してきたのはもう少し歴史が古い。
「今年は『アイドル夏フェス元年』と呼びたくなるほど、参加グループが一気に増えた。一部ヲタ(オタク)の嗜好(しこう)品だったアイドルが、広く音楽ファンに関心を持たれる存在になったということか」
出典:「朝日新聞デジタル」13年7月8日付記事)
「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2013」について語るメディアから引用した。
これは2013年の記事だが、近年ロックフェスに出演するアイドルの数はさらに増加傾向にある。
「Perfume」の功績
「アイドルのロック化」この流れを作った立役者は間違いなく「Perfume」だろう。
『サマーソニック07』に当時アイドルとして異例の出演を果たし、大阪会場DANCE STAGEのオープニングアクトを務める。当時はロックフェスにアイドルが出るということ自体がなかった時代、Perfumeの出演決定には賛否両論があったが、ロックフェスに出演するアイドルの先駆けとなり、後続のロールモデルを構築した
出典:wikipedia
2007年のサマーソニックで「アイドルのロック化」は産声を上げていたのだ。
「Perfume」はサウンド的に所謂"ロック"ではないため、現在言われている「アイドルのロック化」とは直接関係ないものの、ロックリスナーが"アイドル"に触れるきっかけを作ったという点で、無視できない存在だろう。
そもそも「アイドルソング」はロックリスナーが忌み嫌う物であった。
「アイドルなんて聴いてる奴は軟弱」
そんな認識が当たり前のように蔓延していたのがロックの世界。
そんな"当たり前"を破壊し、アイドルとロックの懸け橋となったのが「Perfume」だったのではないだろうか。
「BABYMETAL」アイドルのサウンド革命
今や世界的な人気を誇るメタルダンス・ユニット「BABYMETAL」。
元々はアイドルグループ「さくら学院」の派生ユニット扱いで、単なる”企画モノ”グループの一種だった。
BABYMETALが「メタル」と「アイドル」を組み合わせた理由は2つある。
プロデューサーである小林啓(KOBAMETAL)が、現地で観覧していた「ロラパルーザ 2010」で、X-JAPANがメタル曲を演奏し好評を博したことで「ひょっとしたらメタルいけるんじゃないかな」と感じたから。
Perfumeが「テクノ」と「アイドル」という従来のイメージにはない組み合わせで商業的に成功したから。
ここでもPerfumeの名前が挙がることから、彼女たちの功績の大きさが分かる。
そして「アイドル+メタル」という奇をてらった戦略が功を奏し、爆発的な人気を獲得するに至った。
BABYMETALは、「アイドルがロックサウンドで歌唱する」というフォーマットを普及させ、今や誰もが当たり前だと認識するほど一般化させてしまったとんでもないグループだ。
「BiSH」他「ロック系アイドル」の台頭
「新生クソアイドル」改め「楽器を持たないパンクバンド」としてロックファンから愛されるBiSH(ビッシュ)。
彼女たちの活躍でアイドルのロック化は決定的なものになったと思う。
BiSHはロックバンド顔負けのライブパフォーマンスに定評があり、歌詞のメッセージ性も強く、マインドやスタンスも"パンク"だと絶賛されている。
ロックバンドとのコラボや対バンなど、活動のスタイルはもはやロックアーティストのそれと大差ない。
音源の高評価はもちろんだが、地道なライブ活動によりSNSでの口コミを経て徐々に人気を獲得してきた印象がある。
まるで売れ方までもがロックバンドのようだ。キッズがハマりやすいのも頷ける。
他に、BiSH以外の顕著な例としては「PassCode」が挙げられる。
彼女たちもライブパフォーマンスが界隈で話題となった。
音楽性はゴリッゴリのエレクトロニコアで「Fear, and Loathing in Las Vegas」を想像してもらえば分かりやすいかと思う。
実際にラスベガスの主催イベントにも出演しており、様々なバンドとの対バンツアーを行うなど、ロックファンとの親和性も極めて高い。
アイドルのロック化はカレーラーメン
今やロックバンドと同じレベルで「ロックしてる」感のあるアイドルという存在。
サウンド、ライブ共にロックバンドとの境界線がますます曖昧なものになっている。
こんな状況を目の当たりにすると、ロックバンドの存在価値って何だろうという気がしてくるのだ。
両者ともにファンの人間は、バンドもアイドルも関係なく同じ熱量で応援しているだろうからその点は別に問題はない。
しかし筆者は、常日頃気になっていることがある。
「BiSH」や「PassCode」を邦ロックアーティストだと認識しているリスナーがいることをご存じだろうか。
- 「#日曜日なので邦ロック好きと繋がりたい」
- 「#日曜日だし邦rock好きな人と繋がりたい 」
- 「#日曜日だし邦rock好きなフォロワーさんが増えることを願う 」
ツイッター上で上記のハッシュタグを付け、自身が好きなバンドの名前を羅列した画像を添付しツイートするという、恒例行事が毎週日曜日に執り行われている。
ツイートではフェス常連の邦ロックバンドの名前が挙がることが多いが、たまに「BiSH」や「PassCode」の名前が目に入ることもある。
それをみると「う~ん・・・」とやるせない気持ちになるのだ。
そこは分けて考えてくれよと。
物事には立ち位置があると思う。
カレーラーメン
たとえば、『カレー』と『ラーメン』は別の食べ物だが、『カレーラーメン』ってどっちなんだ?っていう。
カレーにラーメンの麺が入っているのか、ラーメンのスープがカレーなのかという意味だ。
カレーラーメンは「カレー」なのか「ラーメン」なのか。
ちなみにどちらなのかというと、職人達が栄養価の高いものを手間なく食せるよう、食堂でラーメンにカレーのルーをのせたのがそもそもの起源らしい。
したがって、カレーラーメンは「ラーメン」ありきと捉えることができる。
しかし現在の作り方で考えれば、出来上がったカレールーに麺を入れると考えたっておかしくはないはず。
アイドルのロック化ってそういうことなんじゃないかなと。
ロック系アイドルは「アイドル」なのか「ロックアーティスト」なのか。
仮にアイドルを「邦ロックアーティスト」だと捉えてしまったら、アイドル化した邦ロックバンドと状況的には何も変わりはない。
もちろんスタートの時点でアイドルなので、ロックアーティストには成り得ないが、結果的にそこに存在する"アイドル"という集団は、「アイドル化したロックバンド」と捉えられ方や形態は同じではないのか。
筆者はロックが大好きだがアイドルも変わらず好きだ。
ジャンルを意識して音楽を聴くことはナンセンスだという人もいる。
筆者もそれは賛成で、ジャンルによって偏見を持ってはいけないし、同じように評価して良い物は良いと言っていきたい。
だが、上記の事柄はそれとは別次元の話だ。
アイドルを過剰にロックアーティスト扱いするのはやはりおかしい。
メディアが煽り過ぎたのがそもそもの原因だとは思うが。
面倒なことを言っている自覚はあるがあえて言わせてもらう。
アイドルのロック化とは「アイドルがロックのフォーマットで活動している」だけだ。
ロック化したアイドルは決してロックではない。
アイドルがロックをやるから面白いのであって、アイドルがロックバンドと同列の存在になってしまったら、それは「アイドル」という本来の意味で捉えた場合、魅力的と言えるのかと。
尤も、「アイドルがロックアーティストになってはいけない」というルールなど何処にも存在しない。
だから、筆者がグチグチ言っていることは全く意味のない事である。
だが、ロックを鳴らすのはロックバンド/アーティストの仕事であってほしい。
それと同時に、アイドルはアイドルにしか出来ないことをやってほしいと思っている。
仮に、この先ロックが完全に衰退したら、アイドルはきっとロックのフィールドから撤退していくだろう。
勝手な憶測だが、ビジネスとして旨味があるからロックに傾倒しているアイドルグループがほとんどだと思っている。
もちろんそれをやらせているのは事務所の大人だということも分かった上での発言だ。
それが良い悪いの話ではなく、アイドルとはそういう存在なのだ。時流に乗って活躍するのがアイドルの宿命。
世界的なムーブメントで言えばロックはまるで元気がない。2020年UKでロックアルバムが1位になった時は「久しぶりの」なんて言われる始末だ。
それを考えれば、日本はKing Gnuなどの活躍を鑑みても、まだ元気がある方だと思うし、ビジネスとして十分成立する部分もある。
だからこそアイドルはロックに傾倒するのであって、もし演歌が覇権を握れば「演歌系アイドル」が増殖するのなんて目に見えている。
日本はそういう国だし、リスナーの多くはそれに何の疑問も抱かない。
これも善し悪しの話ではなく、時流に乗った活動をしていくのがアイドルという存在。それをリスナー一人ひとりが認識すれば幸せになれる人間が増えると思うのだ。
メディアに対して言いたいこと
アイドルとロックバンドを分けて捉えてほしい。
現状カテゴリーとしては明確に分かれているのだが、扱いは完全にロックアーティストのそれになっている。当然その方がクールだし、受け手の反応も良くなるので仕方ない部分もあるとは思う。
だがファンの数は限られている。
結局はパイの奪い合いになるのだから、ビジュアルで勝るアイドルはその時点でロックアーティストよりもアドバンテージがある。
要するに、ロックバンドの居場所をこれ以上奪わないでほしいのだ。
ロック畑にいてもアイドルとうまくやっていける人間もいるだろう。実際相乗効果によってプラスに働いているケースもある。
しかし、アイドルに迎合できないロックアーティストがたくさんいることも忘れないでほしい。
尤も、アイドルに負けてしまうロックアーティストにも責任はある。
現状に不満があれば実力でひっくり返せばいいだけで、それが出来ないところにロックのパワー不足も感じてしまう。
アイドルのロックバンド化は「カレーラーメン」 まとめ
ということでグチグチと語ってきたアイドルのロックバンド化現象。
ここまでこじらせた思考で音楽と向き合っている人間が果たしてどれだけいるか分からない。
きっと共感されることもないだろうけど、言いたいことを言えたので、今はそれで満足している。
余談だが、今回のような記事を書くと、はてなブログの読者登録者やツイッターのフォロワー数が減ることがある。
※2/19追記:この記事をアップした翌日やはりフォロワー数が二人減っていた
そのたびに自分はマイノリティなんだなと痛感させられるし寂しさに襲われるが、今更簡単にスタンスを変えられないので最早どうしようもない。
それに、いつも言葉足らずで真意が伝えきれていない自覚もある。すべては自分の落ち度だ。
良いと思う物を聴いていくスタンスは変わらないけれど、今後もアーティストそれぞれの立ち位置にはこだわっていきたいと思っている。
その考え方から生まれる"面白さ"が、筆者の中で絶対的に存在するからだ。
それではまた。
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