Unlucky Morpheus「Unfinished」レビュー&感想 ~メロスピとモダンロックとの融合~
今回は、2020年7月29日リリースされた、Unlucky Morpheus「Unfinished」をレビューしていこう。
いろいろなメディアで、「Unlucky Morpheus」という名前だけは何度も目にしており、どうやら人気があるという情報もキャッチしていた。
ちなみにバンド名は「アンラッキーモルフェウス」と読む。「あんきも」という略称で親しまれているらしい。
かねてから気になっていたUnlucky Morpheusのフルアルバムをようやく聴くことが出来たのでさっそくレビューしていきたい。
Unlucky Morpheus「Unfinished」レビュー&感想
全9曲とボリュームは少なめであるが、中身はかなり濃厚な"あんきも"の音楽世界が広がっている。
Unlucky Morpheusの音楽性を一言で表すのは難しいが、サウンドの根幹をなすのは「メロディックスピードメタル」の要素だろう。日本人のメタラーも「メロスピ」と呼び、コアなファンが存在することでも有名なジャンルである。
メタルに馴染みのない方は「メロディックスピードメタル」と言われても何のことかわからないと思うので簡単に説明すると、
哀愁を誘う叙情的すぎるメロディは、ときに「クサい」と形容されたりもする。
そして、「クサさ」こそがメロスピ最大の特徴でもある。
「クサさ」が感じられないメロスピは、「タコの入っていないタコ焼き」「牛肉の乗っていない牛丼」のようなもので、全く別の"何か"に変化し、味気ない物になってしまうと思う。
ここまでの説明で分かるように、メロスピ要素が強いUnlucky Morpheusの「Unfinished」は、クサいメロディが全編を支配している。
クサいと書くとネガティブに聞こえるかもしれないが、歌謡曲やアニソンのようなキャッチーさがあると考えてもらえばいい。
そのキャッチーさがエスカレートしたとき「クサい」と形容されるのだが、メロスピで「クサい」と表現されるのは最大の褒め言葉なのだ。
クサさが充満している「Unfinished」は、極めてキャッチーな歌メロを搭載した楽曲ばかりだということ。それはつまり、「歌モノ」好きにも訴求できる聴きやすいアルバムだとも言える。
いわゆる「良い曲」というのが多いため、「メタルはちょっと…」という方にこそ「Unfinished」は聴いてもらいたい。
ただのメロスピで終わらせない革新的な音楽性
先ほどの項目で、サウンドの根幹をなすのは「メロディックスピードメタル」と書いたが、Unlucky Morpheusのサウンドはメロスピだけにとどまらない。
尤も、「Unfinished」は「メロスピ」要素だけ抜き出しても、完成度の高い曲が目立つ。したがって、メロスピ一本で勝負していたとしても、メタル好きが十分納得できるクオリティの作品を提示できていたはずだ。
にもかかわらず、様々な表現方法にトライし、それが見事にマッチしている。
筆者がまず驚いたのは、楽曲の随所で挿入される「グロウル(デスボイス)」の存在。
こちらの「Top of the "M"」をはじめ、アルバム9曲中、8曲という実に高い頻度でグロウル(デスボイス)が採用されていた。
恥ずかしい話、メロスピにグロウルが入る音楽は聴いたことがなかった。後で調べて分かったのだが、世界を見渡すと、結構な数のグロウル導入型メロスピバンドが実は存在していたのだ。
日頃自身がメタラーと自称しているのを少し恥ずかしく思ったけれど、視野の狭さを改めるいい機会になったし、結果的には、Unlucky Morpheusのおかげで新しいジャンルの扉を開くことになる。
そんな経緯もあり「Unfinished」のサウンドを斬新な音楽として素直に楽しむことが出来た。そして、どちらかというと軽いイメージのあったメロスピに、重厚感が加わったことが、筆者のなかでかなりの衝撃として印象に残った。
モダンロックとの融合
Unlucky Morpheusの「Unfinished」はもう一点、旧来のメロスピにない要素がある。
それが、モダンロックとの融合だ。
さっきまでメロスピだと思っていた楽曲が、急に、デスコア/メタルコアな雰囲気に様変わりすることが何度もあった。
予想外だったモダンサウンドを聴くことが出き、Unlucky Morpheusに対する評価は激しく上昇したのだが、それだけではなかった。サウンドがいきなり変化しても違和感を覚えることなく、すんなり聴かせるセンスの良さまで兼ね備えていたのだ。
たまにあるのが、流行っているジャンルの音を無理やり突っ込んで、最終的に中途半端な音楽になってしまうパターン。
音としてはカッコいい場合もあるけれど、結局何がやりたいのか分からず、それまで持っていた個性を失い印象にも残らないという最悪なパターンだ。
Unlucky Morpheusは、メロスピ要素を軸とし絶対にぶれることなく、上手くモダンロックと融合させている。
どうやらこれは、紫煉(読み:しれん)(G)の音楽的嗜好が影響しているようだ。
上のインタビューにて、紫煉は
こう語っている。
メロスピというのは本来「今風」のオシャレな音ではなく「ダサい」部類の音楽といってもいい。だから、メロスピというジャンル自体が、常識的に考えれば絶対に流行らない音楽性なのだ。
そんなダサい音楽である「メロスピ」に、ラウドロックを持ち込んだ紫煉には拍手を送りたい。
※ちなみに、BABYMETALはその多くがメロスピ的な楽曲だが、彼女たちは規格外なので、他のアーティストと同列で語ることは難しい。
紫煉は上のインタビューでこうも語っている。
ここまで全体的に現代風のメタルに振り切った曲調は少なかったですからね。そういうのが好きな子には訴えられるかなと。そのうえであんきもらしさもミックスできたと思います。
彼の作りたかった音楽は、成功したと言えるだろう。本作のクオリティならばラウドファンにも十分訴求できるし、新たなメロスピファンを増やすきっかけにもなるはず。
クサすぎるメロディと高すぎる歌唱力
耳馴染みの良いメロディは「Unfinished」を語るうえで外せないポイントになる。
上でも散々語ってきたが、とにかくクサい。クサすぎると言ってもいいだろう。だが、それがいい。
メロスピに馴染みのないリスナーなら、矢つぎ早に繰り出される美メロの応酬に、メタルであることをつい忘れてしまうような瞬間が訪れるはず。それほど「歌」の存在感が強い。
「Unfinished」は"歌モノ"として捉えても、日本人の感性に合っていると思うし、幅広いリスナーにお勧めしたいアルバムになっている。
そしてもう一点、圧倒的な歌唱力が堪能できるのも「Unfinished」の魅力。
サウンドや美しいメロディだけでも高い評価が得られそうな作品だが、その上で「歌」でも楽しませてくれる。
圧倒的な歌唱力と言えば「アニソンシンガー」だが、Unlucky Morpheusの天外冬黄(読み:てんげふゆき)(Vo)もアニソンシンガーを思わせる、伸びやかで凛とした歌声の持ち主だ。
それもそれはずで、これも後で調べて分かったが、「Unlucky Morpheus」というバンドは、当初アニソンのコピーバンドから始まり、「東方Project」ともゆかりがある。
「だからアニソンに聴こえるんだな」と妙に納得してしまった。
いずれにせよ、単純な歌唱力は相当なもの。上に貼ったMVを観てくれた方ならわかると思う。「歌」をメインに音楽を聴くリスナーにも自信をもってお勧める出来る。
Unlucky Morpheus「Unfinished」レビュー&感想 まとめ
というわけで、Unlucky Morpheusの「Unfinished」をざっくりとレビューしてきた。
それにしても、メロスピを主体とした音楽が若者の間で流行っているというのは、いささか信じられない気持ちもある。
筆者はメタルに対し感覚が馬鹿になっているが、冷静になって客観的に聴くと、メロスピはシンプルにダサい音楽だと思う。
まあアニソンに近い音楽性なので、アニメの隆盛とともにメロスピも市民権を得たということだろうか。それともBABYMETALの影響なのか。
理由はどうあれ、メロスピというニッチなジャンルが日本のリスナーに歓迎されていることは間違いないので、筆者としてはそれが一番うれしい。
『Unlucky Morpheus』『Unfinished』共々、あなたのお気に入りに加えてもらえたら幸いである。
それではまた。
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