BURN THE SECRET/WANDS レビュー&感想 秘密を燃やした21年ぶりの名盤
今回は2020年10月28日リリースされた「WANDS」21年ぶりのフルアルバム『BURN THE SECRET』のレビューをしていく。
- BURN THE SECRET/WANDS 収録曲リスト
- BURN THE SECRET/WANDS 総評
- BURN THE SECRET/WANDS 全曲レビュー
- BURN THE SECRET #01.「David Bowieのように」
- BURN THE SECRET #02.「抱き寄せ 高まる 君の体温と共に」
- BURN THE SECRET #03.「賞味期限切れ I love you」
- BURN THE SECRET #04.「Secret Night 〜It's My Treat〜 [WANDS 第5期ver.] 」
- BURN THE SECRET #05.「Burning Free」
- BURN THE SECRET #06.「真っ赤なLip」
- BURN THE SECRET #07.「明日もし君が壊れても [WANDS 第5期ver.]」
- BURN THE SECRET #08.「もっと強く抱きしめたなら [WANDS 第5期ver.]」
- BURN THE SECRET #09.「世界中の誰よりきっと [WANDS 第5期ver.]」
- BURN THE SECRET #10.「アイリメンバーU」
- BURN THE SECRET/WANDS レビュー&感想 まとめ
BURN THE SECRET/WANDS 収録曲リスト
#01. David Bowieのように
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:柴崎浩
#02. 抱き寄せ 高まる 君の体温と共に
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:柴崎浩
BSテレ東土曜ドラマ9「サイレント・ヴォイス season2」主題歌
#03. 賞味期限切れ I love you
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:柴崎浩
#04. Secret Night ~ It’s My Treat ~ [WANDS 第5期ver.]
作詞:上杉昇 / 作曲:栗林誠一郎 / 編曲:柴崎浩
#05. Burning Free
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:柴崎浩
#06. 真っ赤なLip
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:大島こうすけ
読売テレビ・日本テレビ系アニメ「名探偵コナン」オープニングテーマ
#07. 明日もし君が壊れても [WANDS 第5期ver.]
作詞:坂井泉水 / 作曲:大野愛果 / 編曲:柴崎浩
#08. もっと強く抱きしめたなら [WANDS 第5期ver.]
作詞:魚住勉・上杉昇 / 作曲:多々納好夫 / 編曲:柴崎浩
#09. 世界中の誰よりきっと [WANDS 第5期ver.]
作詞:上杉昇・中山美穂 / 作曲:織田哲郎 / 編曲:柴崎浩
#10. アイリメンバー U
作詞・作曲:上原大史 / 編曲:柴崎浩
おすすめ曲⇒1,3,5,10
BURN THE SECRET/WANDS 総評
BURN THE SECRETは直訳すると秘密を燃やせという意味になる。「隠すものなど一切ない、ありのままで剥き出しのWANDSサウンドが封じ込められた」とメディア等で紹介されているアルバム。
ファンがまず一番気になるのは上原大史のボーカルだと思うが、シングル曲で聴かせてくれた素晴らしい歌唱力は「BURN THE SECRET」でもたっぷり堪能できる。ただ、こうして様々なタイプの曲を一気に聴くと、やはり「上杉昇」「和久二郎」両名のボーカルスタイルに寄せ過ぎている気がした。アルバムではもう少し上原の個性を出してくるかと思っていたが、そんなこともなく綺麗にまとまりすぎている。新生WANDS一発目のアルバムということで、ファンを考慮して寄せてしまうのは仕方ないかもしれないが。
下記のインタビューで、上杉を求められるプレッシャーを強く感じており、それに少し疲れてしまったと語っている上原。
【インタビュー】WANDS、21年ぶりのニューアルバムを語る「ちゃんと前に進めている」(3ページ目) | BARKS
ファンもそうだが、プロデューサーからも相当プレッシャーをかけられていたに違いない。次作はどうか伸び伸びやらせてあげてほしい。上原大史という男の歌唱力はとんでもない。個人的には新しいWANDSを創造出来る才能をもったボーカリストだと思っている。
YouTubeのコメントで「(上原大史は)いい意味でWANDSを喰ってしまっている」というのを見つけたが、現段階では過大評価もいいところだ。上記のコメント以外にも上原の歌に言及しているブログをいくつか拝見したが、軒並み同じような意見である。明らかに、前任ボーカリストに似せた声を出しているのに、その部分に蓋をして好意的に捉えている。正直まだまだ”物まね”の域は脱していない。今の状態でWANDSを喰うなんてことは不可能である。上原のポテンシャルはまだまだこんなものではないはず。過去のWANDSすべてを破壊するくらいの活躍に期待したい。
少し厳しいことを書いたが、WANDSが大好きだからこその愛ある苦言である。ここまで来たら、私のような上杉信者がぐうの音も出ない圧倒的な力でねじ伏せるようなボーカリストになってもらいたい。
次に楽曲について語っていこう。
収録曲をご覧いただいたように、全10曲中4曲は過去のヒット曲のリテイクになっており第5期の楽曲は実質6曲である。シングルなど既発曲も含めれば純粋な新曲は4曲ということで筆者としては少し寂しかった。第5期オリジナルの楽曲クオリティが高かっただけに余計そう感じてしまった。次作ではアルバム全曲を第5期だけの楽曲で聴いてみた。
そうした不満点はあったが、新旧織り交ぜながらも、そのバランスの良さは、さすが長戸大幸(本作のプロデューサー)といったところ。数々のヒット作を世に送り出しただけあって、アルバムとしての完成度は極めて高い。収録曲の選定に関しても長戸がイニシアチブを執っていたようで、あらためて凄腕プロデューサーだなと思い知らされた。
サウンドは、現代的な味付けが所々で聴けるものの、往年のWANDSを彷彿させるものばかりでファンは安心して聴けると思う。バラエティに富んでおり非常に聴きやすいアルバムになっている。
完全新作である4曲の作曲は、柴崎3、上原1。上原大史の曲が収録されているが、本人としては収録されると思っていなかったそうだ。柴崎のインタビューでは、アルバム完成間際に「もう少し違う色が欲しい」ということになり、上原の曲に白羽の矢が立ったと語っている。「アイリメンバー U」という曲なのだが、非常にキャッチーなポップソングで、結果的にこの曲が良いアクセントになっている。柴崎の曲もポップな物が多いが、それとは違ったベクトルのポップさを備えており、アルバムに彩りを添えている。
BURN THE SECRET/WANDS 全曲レビュー
BURN THE SECRET #01.「David Bowieのように」
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:柴崎浩
「香水」の「♪ド~ルチェ アーンド ガッバ~ナ~」にも通じる、固有名詞(David Bowie)とメロディとの親和性がくせになる、アルバム開幕を飾るにふさわしい疾走感のあるオープニングナンバー。
柴崎浩のメロディセンスは驚異的である。メロディだけでいえば、彼が過去に生み出してきたアルバム楽曲は、どれもシングルカットできるクオリティを誇るが、この曲も然り。フックが満載されており、たとえWANDSに興味がなくとも一聴すれば「良い曲」だと感じるはずだ。非常にエモーショナルで思わず口ずさみたくなる。柴崎作品の中でも指折りの名曲ではないだろうか。新生WANDSとしての一発目のアルバム一曲目ということで相当気合が入っていたと思うが、こんな曲が聴けるなんてファンとしてはこの上ない幸せである。
BURN THE SECRET #02.「抱き寄せ 高まる 君の体温と共に」
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:柴崎浩
2020年5月20日リリースのWANDS復活第2弾シングル。
短いギターフレーズから、キャッチー過ぎるサビメロが唐突に炸裂する、インパクト抜群な楽曲。歌を前面に押し出したアレンジになっているが、実はギタープレイも聴きどころだったりする。随所に登場するソリッドなカッティングは職人技が光り、非常に小気味よい。
BURN THE SECRET #03.「賞味期限切れ I love you」
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:柴崎浩
Aメロ ⇒ 間奏 ⇒ Aメロ ⇒ サビ というWANDSの中ではトリッキーな楽曲。さらにサビが二回しか登場しないという点も珍しい。
柴崎はインタビューで
演奏だけのセクションが多いアレンジの曲が、1曲ぐらいあってもいいかなって
出典:BARKS
と語っているようにサウンドでグイグイ押していく楽曲である。
ここまでジャジーでアダルティなアレンジは過去のWANDSでは聴かれなかったものでまさに新機軸。鍵盤の音が印象的ではあるが、ギターも負けていない。柴崎のムーディーなプレイに酔いしれてほしい。
BURN THE SECRET #04.「Secret Night 〜It's My Treat〜 [WANDS 第5期ver.] 」
第二期WANDSがハードロックやオルタナサウンドへとに移行する過渡期にあった楽曲のリテイクバージョン。
筆者はもちろんだが、多くのファンの思い入れも強い楽曲である。そうなると一番気になるのは原曲との違いだろう。というわけで聴き比べてみた。
個人的には原曲に感じられた禍々しさ、けだるく不穏な空気感が減退していると思う。なにより重さが感じられないし、なんだが綺麗にまとまりすぎている。どちらが好きかと問われたら原曲の方に軍配が上がる。
上杉と上原のボーカルの違いが、曲に及ぼした影響も大きいとは思うが、やはりサウンドが一番気になるポイントだった。
一聴すれば太くラウドな音になっているものの重さが足りないのだ。意味がわからないかもしれないが、近年のラウドロックと同じようなもので、作り込まれ過ぎたラウドサウンドは圧倒的に重さが足りない。形骸化されたラウドなサウンドではなく本当の意味でのラウドでなければサウンドに重さは宿らない。
尤も、筆者はこだわりがありすぎて偏屈なことを言っているに過ぎない。気持ちの悪い面倒なファンの戯言だ。普通に聴く分には何も問題のないクオリティに仕上がっている。上原のボーカルも及第点以上で上杉のスタイルを見事に再現している。
BURN THE SECRET #05.「Burning Free」
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:柴崎浩
第5期WANDSが一番最初に制作した楽曲。
クラップが印象的で、ライブで映えること間違いなしの疾走感あるロックンロールナンバー。
いちばん上杉(昇)さんを意識しなかったのは、この曲かもしれないですね。
出典:BARKS
とインタビューで上原が語っているように、上杉昇の呪縛を解き放ち、フラットな気持ちで楽曲に向き合えた一曲なのだろう。それは弾けたボーカルや歌詞にも表れており、「上杉なんて関係ねぇ好きにやらせてもらう!」という強い意思が感じられた。インタビューでも少し触れられていたが、上杉を求められるプレッシャーは相当なストレスだっただろう。それをこの曲で爆発させたとも言える。そういったネガティブなエネルギーが楽曲の熱量に変換された好例。今作の中で最も「上原節」を聴くことが出来る楽曲である。次のアルバムはこのスタイルの楽曲をたくさん聴いてみたい。
BURN THE SECRET #06.「真っ赤なLip」
作詞:上原大史 / 作曲・編曲:大島こうすけ
2020年1月29日リリースのWANDS復活第一弾シングル。
名探偵コナンの主題歌という事で多くを語る必要はないと思う。控えめに言って名曲。
ちなみに筆者が上原大史の歌声を初めて聴いた楽曲である。
当時のことを偉そうに語っている記事がこちら。
BURN THE SECRET #07.「明日もし君が壊れても [WANDS 第5期ver.]」
第3期WANDSの名曲リテイクバージョン。
上原の声色が、上杉バージョンではなく、しっかりと和久バージョンになっている。
つまり上原大史という男は「上杉昇」と「和久二郎」のどちらの声にも似せることが出来るのだ。これは単純にすごい事だと思う。
第3期WANDSが初めてシングルをリリースした当時、ボーカルが和久に変わっていたにも関わらず、ファンの一部は上杉がそのまま歌っていると思っていたそうだ。個人的にだが上杉と和久の声質はまったく違うと思っている。長戸大幸も頑張って上杉の声に似ている人材を連れてきたと思うが、とてもじゃないが同じようには聴こえない。
そんな二人の声色を使い分けることができる上原は、やはり凄まじいスキルを持ったボーカリストである。第5期WANDSは今後も過去の名曲をセルフカバーしていくだろうが、上原大史になら安心して任せられる。
BURN THE SECRET #08.「もっと強く抱きしめたなら [WANDS 第5期ver.]」
作詞:魚住勉・上杉昇 / 作曲:多々納好夫 / 編曲:柴崎浩
言わずと知れたWANDS永遠の名曲のリテイクバージョン。本作以外では「真っ赤なLip」のカップリングとして収録されている。
この曲で聴くことが出来る上原のボーカルが素晴らしい。見事な上杉っぷりである。
特にサビの「もっと強く抱きしめたなら」の「ら」の部分。
原曲では「ら」の部分に、特徴的なビブラートをかけているが、これを見事に再現している。上杉昇といえば驚異的なビブラートだが、こうした変態テクニックをここまでのクオリティで再現できるのだから、それ以外の部分は言わずもがな。この名曲を長く聴いてきた古参ファンでもまったく違和感なく聴けるはずだ。本当にすごい。
BURN THE SECRET #09.「世界中の誰よりきっと [WANDS 第5期ver.]」
作詞:上杉昇・中山美穂 / 作曲:織田哲郎 / 編曲:柴崎浩
発売20日間で100万枚を売上げ、累計では200万枚を超えるという大ヒットシングルのリテイクバージョン。原曲と比べ後半のアレンジが若干変化しているが、「もっと強く抱きしめたなら」同様にまったく違和感なく聴くことができる。
BURN THE SECRET #10.「アイリメンバーU」
作詞・作曲:上原大史 / 編曲:柴崎浩
アルバムラストを締めくくる、上原作のポップなナンバー。
総評の項目でも軽く触れたが、柴崎節の曲ではない「違った色が欲しい」ということで急遽収録されることになった。 このことからも分かるように、他の曲に比べ楽曲全体の質感が異なっている。ひとことで言えば「良い意味でWANDSらしくない」と表現できるかもしれない。それが良いアクセントになって、アルバムの中で独自の光を放っている。インタビューで柴崎も語っているが結果的に存在感のある曲になった。
BURN THE SECRET/WANDS レビュー&感想 まとめ
単純に「良い曲」ばかりのアルバムで、全体としては極めてクオリティの高い「BURN THE SECRET」。リテイクバージョンの原曲再現度は申し分ない。既発曲を除く新曲の完成度も想像を超える物ばかりだった。特筆すべきは上原大史の作った曲だ。柴崎のアレンジが過去のWANDSにはない物になり、それが良い方向に転がった。この事実は新しい可能性を感じさせてくれる。
次のアルバムにもリテイクバージョンが収録されるのか分からないが、個人的には、すべて第5期の曲でアルバムを一枚作ってもらいたい。冒頭にも書いたことだが何度でもそう思ってしまう、良く出来たアルバムだった。
現状では古参ファンだけが騒いでいる印象の新生WANDSだが、ジグザグからWANDSを聴くようになった新規ファン(WANDSからジグザグに嵌る逆パターンもある)もいるそうだ。ファンが増えればそれだけ長く活動できるわけで、ありがたい話である。
WANDSレベルなら古参ファンだけでもやっていけそうな気もするが、昨今の厳しい音楽業界、ひとりでも多くのファンを獲得するに越したことはない。タイアップでも地上波出演でもフェスでもなんでもいいから、今以上に露出を増やしてどんどんアピールしてもらいたい。
それではまた。
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